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第966話 別離 18-1

 好きな人がほかの誰かに向ける視線は、ひどく胸を焦げつかせる。確かにその手を繋いでいても、自分以外の誰かをその目に映すことが我慢できなくなってしまう。好きになればなるほどに、すべてが欲しいと心が騒ぐ。相手を想う気持ちほど厄介なものはない。 「貴也から見たユウはどんな印象?」 「ミナトはいまでも忘れてないし、優しいんだろうけど。話を聞いてると誠実そうには感じないな。相手に対して曖昧なまま付き合うとか、するべきじゃないだろう」 「んー、なるほど、厳しいな。でも僕は不器用なだけで、真面目で誠実な人間だと思ってるよ」  裏表のない貴也の言葉には苦笑いが浮かんでしまう。確かに肝心なことを話してくれないとか、急にいなくなってしまうとか、そういうところはあるから自分の存在意義を疑ってしまうけど。藤堂が不誠実だと思ったことは一度もない。むしろ人のことを考え過ぎて自分を追い詰めてしまうようなタイプだと思っている。  あの頃の藤堂は僕を忘れようとしていた。だから相手を本気で好きになろうと、真剣に向き合っていたはずだ。藤堂は他人を蔑ろにできる人間じゃない。傍に寄せた相手にはいつだって誠実だった。  そう思うからこそ早く会って確かめたいと心が急いてしまう。相手に向き合えなくなるほどに、心が折れてしまってはいないかと、ひどく心配になってしまうんだ。 「不安になるようなことされてるのに、それでも信じてるんだ」 「うん、信じてる。わけもなくいなくなるような奴じゃないって」  本当を言えばいなくなる前にちゃんと話して欲しいし、頼って欲しいと思う。でもおそらく僕のこともいなくなる理由に含まれているんじゃないだろうか。僕になにかしらの危害が及ぶかもしれないから、それを避けるために姿を消した可能性だってある。

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