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第968話 別離 18-3
「噂だって」
「え?」
「付き合っていたってのは噂で、実際そうなのかはわからないって」
主語の足りない貴也の言葉に思わず首を傾げてしまったが、すぐになんの話をしているのか気がついた。さっきミナトが言っていたことを訂正してくれたのだ。噂と言うことは、事実ではないかもしれないのか。貴也の気遣いが嬉しくて少し気持ちが浮上した。
「気にしてるみたいだから」
「うん、ありがとう」
目を伏せ手元のグラスを磨く貴也の表情にあまり変化はないけれど、思わず浮かべた僕の笑みにほんの少し空気を和らげる。その優しい雰囲気が心地よくて、僕は珈琲カップを傾けながら口元を緩めてしまった。
「ごめん、お待たせ」
しばらくゆったりとした時間を過ごしていると、スイングドアが開きミナトが顔を出した。戻ってきたミナトは先ほどまでの私服ではなく、貴也と同じ黒のスラックスにベスト、真っ白いシャツに着替えられていた。
「あれ?」
襟元のネクタイを結びながらミナトは小さく首を傾げた。そして僕と貴也を見てちょっと拗ねたように口をとがらせる。
「ちょっと離れてたあいだになんか仲よくなった?」
「え? そんなに親しくなるほど話はしていないぞ」
「貴也、なんでそんなに態度変わってるの! ほかの人に優しい顔しないでよ」
思いがけないミナトの言葉に僕は目を瞬かせて驚いてしまった。けれど僕の話など聞こえていないミナトは、ぴったりと貴也の横にくっつくと表情の少ないその顔をじっと見つめている。
「浮気したら泣くからな」
「してない」
ぎゅっと腕にしがみつくミナトにも貴也の表情はちっとも変わらない。そんな素っ気ない反応にミナトは頬を膨らませると、肩口に額を寄せぐりぐりと擦りつける。
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