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第969話 別離 18-4

「いいなとか思ったら怒るからな」 「思ってない。そんなことより電話、したんだろ」 「そんなこと! もー、貴也! そういう言い方は傷つくっていっつも言ってるだろ!」  すり寄るミナトの頭を片手で押しやる貴也の表情は、先ほどまで無表情だったのにいまはどこか楽しげだった。言葉数や表情など豊かではないけれど、やはり恋人は特別なのだなと見ていてなんだか微笑ましくなる。藤堂も時々拗ねたり怒ったりもするし、無邪気に笑った時などは自分にだけ向けられている表情だと優越感に浸ったものだ。 「話のほうが先だろ」 「あ、ごめん」  前髪をかき乱すように撫でる貴也の手に頬を緩めたミナトは、ようやく満足したのか僕をいま思い出したかように慌てて振り返る。その焦った表情に僕は吹き出すように笑ってしまった。ミナトの行動には嫌みがない。素直でまっすぐな性格がよくわかる。 「あ、えっと。奈智さんに連絡はついたんだけど、仕事が忙しいからすぐは会えないみたいなんだ。それでもいい?」 「ああ、構わない」 「ユウのこと聞き出せたらよかったんだけど、常連の小林さんにまでユウがいなくなったことは話せないし、ユウのことで話がしたい人がいるってことになってる。これ連絡先と待ち合わせ場所」  差し出されたメモには日付と電話番号、店の名前らしきものが書いてあった。メモを受け取りしばらくそれをじっと見つめてしまう。こうして時間を作ってまで会ってくれるのは、藤堂のことをなにか知っているからなのだろうか。いや、いまは理由などなんでもいい。どんな些細なことでもいい、藤堂に関することがわかればそれだけで十分だ。微かな期待を込めて僕はメモを胸に引き寄せた。

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