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第972話 別離 19-3
「ありがとう、ちょっと待っててね。あっちゃんこれ返すね」
小銭をテーブルの上に置くと、三島は足早にレジカウンターに向かって行った。待ち列に並んだ三島を見ながら、僕は椅子を引いて片平の向かい側に座る。
「西岡先生から連絡来ないから、どうしたのかなって心配してたのよ」
テーブルに置かれた小銭をしまうと片平は身を乗り出すようにテーブルに両腕を乗せる。近くなった距離に驚いて身を引けば、からかうような視線で片平は笑みを浮かべた。
「すまなかったな。偶然人に会って」
「優哉の知り合いだったんでしょ? すごい偶然だよね! それでなにかわかった?」
連絡が取れなかった理由はそれとなくメールで伝えていた。この片平のそわそわとした感じは、ずっとそれが気になって仕方がなかったせいかもしれない。
「んー、確かな情報じゃないんだけど」
「なになに?」
興味津々な様子で言葉を待つ片平に少しばかり苦笑いを浮かべながら、僕はミナトがメモをしてくれた紙を取り出した。
「えーと、荻野、奈智?」
「藤堂が中学生くらいの頃によく一緒にいた人らしいんだけど」
テーブルに置いた紙を掴んで目先まで持って行くと、片平はそれをじっと見つめ首を傾げた。そしてそこに書かれた名前を復唱して目を瞬かせる。しばらく待ってみるが、片平は置物のように固まったままだ。一番身近だからなにか知っているかもしれないと思っていたが、その反応を見ると知り合いではないのだろうか。そういえば藤堂の中学時代は少し疎遠だったと三島が言っていたような気もする。
「うーん、覚えがあるような、ないような。ねぇ、弥彦! この人知ってる?」
難しい顔をして顔をしかめた片平はしばらく唸っていたが、トレイを持ち戻ってきた三島に向かい片手を上げてメモ紙を振った。
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