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第973話 別離 19-4
「えー? どの人?」
「中学の時に優哉が一緒にいた人だって」
トレイをテーブルに置いた三島は隣の椅子を引いてそこに腰かけると、僕にお茶代のお釣りを返し片平に差し出されたメモ紙を受け取った。そしてしばらくそれを見つめたまま、先ほどの片平のように顔をしかめる。けれど長らく考え込んでいた三島だったが、突然「あっ」と小さく声を上げた。
「これ、あの人じゃないかな。優哉の家庭教師してた人。あっちゃんがなっちゃんって呼んでた人で」
「なっちゃん? えーっと、あー、うーん」
「ほら、覚えてない? 背が高くてちょっと見た目が外国人ぽい感じで、格好よくてすごく優しくて、俺たちにもたまに勉強を教えてくれた」
「うーん、待って思い出すから」
メモ紙をテーブルに置いて指先で叩いた三島に、片平は両手で頭を抱えて身体をよじりながら唸っている。しまいにはテーブルの上に額を乗せ動きを止めてしまった。けれどしばらく経つとテーブルに両手をついて勢いよく顔を上げた。
「あ、思い出した! その人って中学一年の時に家庭教師してて成績よくなったけど、優哉の反抗期がひどくなったから辞めさせられちゃった人だ」
「そうそう、一年だけ家庭教師してた人」
「一年だけ?」
荻野奈智という人は一年しか藤堂と接点がないのだろうか。しかし夜の街に藤堂を連れ出したのも、その人だとミナトが言っていた。藤堂が明良たちが通う店に顔を出し始めたのは、いつ頃の話なのだろう。
初めて藤堂と出会った時は深夜だった。あれは中学一年の頃だ。しかし大人びていたけれどまだ少し幼さが残る顔立ちで、夜の店に顔を出すような雰囲気は持っていなかったように思う。そう考えるとそれよりあとのような気がする。まだ見えてこない二人の繋がりがひどく気になった。
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