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第974話 別離 20-1

 昔の藤堂をきっと誰よりも知っているだろう人。一年も一緒にいれば少なからず影響も受ける。自分より大人であるその人に憧れだって感じるかもしれない。正直言えば、どんな理由があっても未成年を夜の街に連れて行くのはよくないと思う。けれど息の詰まった家で過ごすよりも、きっと藤堂の心は救われていたはずだ。  ということはそれも理解していた人と言うことだろうか。だとしたら藤堂が傍にいたのもなんとなく頷ける。多分きっと、初めて現れた自分を理解してくれる大人だ。 「そのあとはもう縁は切れたのか?」 「どうかな。優哉はかなり奈智さんに懐いてたし、連絡くらい取り合ってたんじゃないのかな」 「夜遊びが激しくなったのは、なっちゃん先生が辞めたあとだよね。夜に出歩いて朝帰ってきて、学校は午後から来ること多かった」  どうやら夜の店に顔を出し始めたのは中学二年になってからのようだ。と言うことはやはり家庭教師を辞めたあとも交流があったということか。 「それにしても、藤堂は一年の時から家庭教師をつけていたのか」 「あー、うん。優哉は本当なら俺たちとは違う進学校に行くはずだったんだ。けど親の言うこと聞いていい子にしてるの疲れちゃったのかな」 「なっちゃん先生が辞めてから全然勉強とかしてなかったよね。それで当時の成績でも入れるいまの高校を受けることにしたの。優哉は基本的に勉強しなくてもテストの成績抜群によかったし、私たちも受けるからいいだろうって学校の先生がね」  もしかしたら藤堂は高校受験もまともにするつもりがなかったのかもしれない。ふと僕は桜の木の下で見かけた藤堂の背中を思い出した。ぼんやりと木を見つめ、藤堂は風でひるがえる受験票などお構いなしだった。あのまま風に飛ばされてなくなったら、受験するのをやめていたんじゃないだろうか。そのくらい無気力に感じられた。

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