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第976話 別離 20-3

 優しく細められた瞳も茶色っぽく見えるので、もしかしたら異国の血が混じっていたりするのだろうか。人好きするような笑みを浮かべる好青年だ。家庭教師をしていたというから、歳は大学生くらいなのか。けれどそれよりももうちょっと大人びて見える。 「いい人そうだな」 「うん、そうだね。優しくていい人だったよ」  まれな付き合いである三島が好印象を受けているのだ。彼は本当にいい人なのだろう。人付き合いもよくて明るくて大らかで、藤堂が信頼を寄せていた人。そう思えば思うほど心の中で嫌な気持ちが膨らんでいく気がした。それが嫉妬なのはすぐにわかる。僕の知らない藤堂を知っている人。 「藤堂が憧れて好きになりそうな人、かな」 「好き、かぁ。どうなんだろう」  不安が声や顔に出ていたのか三島は少し困ったように首を傾げる。しかしそんな中で片平はのんびりとトレイの上のマグカップを手に取り、それを傾けるとカフェオレを口に含んだ。そしてぽつりと言葉を吐き出す。 「それはないと思うわよ」 「え? そうなのか?」  色んな想像をして落ち込んでいた僕の希望の光とも言える片平の言葉に、思わず身体が前のめりになってしまった。そんな僕の反応に呆れることもせず、片平は持っていたマグカップをテーブルに置き一息ついた。 「だってなっちゃん先生が来たのは中一の春でしょ。その二ヶ月後には西岡先生に会ってるし、憧れはあっても恋愛感情はないわよ。すでに好きな人がいるのに、また別な人を好きになるなんてあいつはそこまで器用な男じゃないわ」 「そっか」 「西岡先生とのことは運よくまた会えるのは無理だろうって、半分諦めて別な人と付き合うとかしてたけど、結局どれも本気になれなかったから長続きしなかったわけだし」 「うん」  心の中は安堵の気持ちでいっぱいだった。藤堂の好きな人ではないと聞かされてこんな時なのに嬉しくて仕方がない。

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