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第980話 別離 21-3

「捕まえたと言っても、まだ僕たちの事件については完全に終わったわけではないんですね」 「それは時間の問題です。川端雅明は藤堂彩香にベタボレなので、彼女に罪名がつくことをなんとしても避けるでしょう。なので自分が捕まることは厭わないと思います」  それは初耳だ。そこまで藤堂の伯父は藤堂の母親に惚れ込んでいたのか。だから彼女が望むままに僕を排除しようとした。そういうことなのだろうか。 「藤堂の母親は精神鑑定にかけられているんですよね」 「おそらくこのまま行けば無罪です。いまは自分の名前すらわからない状況なので」 「でも無意識の中に、大事なものを自分から奪う相手を排除したいという気持ちはあったんですよね」  愛情の示し方はかなり歪んでいたが、母親は藤堂のことをかなり溺愛していたと思う。だから彼女は思い描く道を藤堂が歩かなくなったことが許せなかった。そしてその原因を作った僕を消し去りたかったのだろう。そして夫を繋ぎとめている女性も消してしまいたかった。 「結局は藤堂の伯父が罪を被る形で終わるんですね」 「被ると言っても実際の黒幕は川端雅明ですよ。西岡さんの事故や事件も、藤堂彩香の殺人未遂も、あの男がいなければ起きなかったんです」 「そう、ですね」   なんとなくすっきりとした終わり方ではないが、ひとまずは安心していいのだろうか。藤堂の伯父もあの二人も捕まったのだから、もう僕は怯えて心配することもない。 「そういえばうちの高校も川端さんと親しかったようですが、なにか罪に問われることはあるんですか?」 「西岡さんの勤めている高校は私立ですので、理事長も職員も公務員ではありません。ですので収賄罪も贈賄罪も成立しません」  懇意にしていた理事長などはどうなるのかと思ったが、野崎さんが重い口を開いてくれた。しかし顔をしかめて難しい表情を浮かべているところを見ると、罪に問われないだけの話なのかもしれない。

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