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第982話 別離 22-1

 僕の答えに口元を緩めた野崎さんは、それを誤魔化すように湯呑みを持ち上げる。そして静かにお茶を飲みながら、またふっと息をついた。それに僕が小さく首を傾げると、視線を持ち上げてまっすぐに僕を見る。野崎さんはいつもまっすぐに人を見据える人だ。  そっと湯呑みを戻す仕草を見つめれば、真剣な視線を返された。 「色々と大変だと思いますよ」 「はい、でもどんな結果が出ても僕は大丈夫です」  最悪な結果――それがもし来るとしたら藤堂と別れる時だ。それ以外の結果はまだ耐えられる気がしてる。 「西岡さんは強いですねぇ」 「え?」  湯呑みを片手にのんびりとした声で呟いた館山さんは、なぜか野崎さんを横目でちらりと見る。そして長いため息を吐き出した。そんな館山さんの様子に野崎さんは少ない表情をますます消して口を引き結んだ。 「自分の知り合いにもゲイの人がいるんですけどね」 「えっ?」 「その人は好きって言葉はおろか、好きな相手の目も見ない有様なんですよ。もういい加減、相手も気づいてるんですけどね。それでもいまだになにも言わないんすよ。それってどう思います?」  突然の打ち明け話に驚き戸惑っていると、館山さんは僕の顔を見ながら小さく首を傾げる。その表情は心底不思議そうで、理解ができないと顔に書いてある。 「え? えーと。あ、うーん。きっと不器用な人なんですよ。相手のこと大事に思ってて言えないのかもしれないし、同性相手の恋愛って簡単に口に出してしまえるものでもないし。その相手が少しでも応える気持ちがあるなら、その人にアクション起こしてあげればいいんじゃないかな。そうでなければそっとしておいてあげてもいいと思いますけど」  不自然なほど押し黙っている様子から察するに、不器用な人は野崎さんで間違いないだろうが、相手は誰なのだろう。これはもしかしなくても目の前の二人のことなんだろうか。

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