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第983話 別離 22-2

 そういえば野崎さんは館山さんのほうを向いて話すことがほとんどないような気がする。しかしもしそうだとしたら、館山さんがこんなことを聞くくらいだから脈があるってことじゃないのか。 「お互い好きでその気があるなら、どこかで向き合えるんじゃないですか」  推測でしかないから本当のところはわからないけど、人の恋路はうまくいけばいいなと願ってしまうものだ。固まったように動かない野崎さんとのんきにお茶をすする館山さんの様子に思わず笑ってしまった。 「おい、無駄話は終わりだ。そろそろ行くぞ」 「了解っす。お茶ごちそうさまでした」  いきなり立ち上がった野崎さんに、僕は驚いて肩を跳ね上げてしまう。しかし湯呑みをテーブルに戻した館山さんは、両膝に手を当てのんびりと立ち上がった。そして僕に向かって丁寧に頭を下げる。 「もうお会いすることないと思いますけど、これから先も頑張ってください」 「ありがとうございます」  思わぬ激励を館山さんから受けて嬉しくなってしまった。頭を下げ返すと、野崎さんもその場でこちらに向かい頭を下げた。正直会うたび少し面倒だなと思っていたが、僕はいい人たちに出会ったのかもしれない。 「では自分たちはこれで」 「失礼します」 「色々とお世話になりました」  事件から今日まで三週間と少しくらいだろうか。これは早期の解決なのか、それともこのくらいは普通なのか。よくわからないけれど、僕の中ではあっという間の出来事だった。  玄関先で二人を見送り扉が閉まると、急に部屋の中がしんとして一人を実感してしまった。なに気なく暮らしているこの空間が、たまにものすごく広く感じる時がある。いまもまさにそうだった。 「人に会わないのはよくないな」  家にこもって人と会わないままでいるのはよくないなとしみじみ思ってしまう。学校にいるとたくさんの人と触れあうことができるけれど、家に一人でいると会話がない。学校で引きこもっていた時期もあったが、それでも少しは生徒たちと会話をしていたし、いまと比べると身近に人がいるという大きな違いがある。

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