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第985話 別離 22-4

 家に一人きりなのがやはりよくないのだ。外に出て人の会話を耳にするだけでも気分は違うかもしれないと、僕はキッチンを飛びだし身支度を始めた。幸い近所には食べ物屋は多い。なにかしら食べようと思えるものが見つかるだろう。 「あれ、携帯どこにやったかな」  ダウンジャケットを羽織り、財布をズボンのポケットにねじ込んで、僕は見当たらない携帯電話を探し部屋の中を歩き回った。普段はキッチンの前にあるカウンターに置いておくのだが、その近くにはなかった。 「あ、そうだ。充電がないから寝室に持っていったんだ」  リビングを一通り見て回ってからようやく携帯電話のありかを思い出した。昨日の晩に充電をし忘れていたので、午前中に部屋に持っていったのだった。用事がない限り携帯電話を触ることがないのですっかり忘れていた。  リビングと寝室を区切る戸を引いて中を覗くと、机の上に携帯電話が置いてあった。 「あれ? 着信があるな。誰だろう」  電話の着信を知らせる青いランプが点滅している。なに気なく開いてみるが留守番電話にはメッセージは残されていない。かけてきた人物を確かめようとボタンを押した僕は、思わぬ着信相手を目に留めて一瞬息が止まったような気がした。 「嘘……藤堂?」  着信時刻は三十分ほど前。着信履歴に表示された名前は見間違えようがないものだった。しかし慌ててリダイヤルしてみるがやはり電話は繋がらない。一気に途方に暮れた気分になる。 「繋がらない、か。まだ伯父さんのこと知らないだろうしな。もう隠れたりしなくてもいいってこと伝えてやりたい」  いまどんな状況で過ごしているのだろう。電話をくれたと言うことは僕からのメッセージを見てくれたのだろうか。気持ちが少しでも伝わってくれたらいいのだけれど。 「またいつでも連絡してくれってメールしとこう」  繋がらなかったことを気に病んで電話がこないのは困る。予防線を張っておこうと、僕は連絡を待っていることを伝えるメッセージを送信した。

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