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第986話 別離 23-1

 藤堂からの連絡を待っているあいだにまた数日が過ぎて、約束の二週間後がやってきた。普段は滅多に着ないよそ行きのジャケットを着て、時間と場所を確認したら準備はほぼできたも同然だ。あの日以来、藤堂からの連絡は来ていないから、今日なにか収穫があればいいのだけれど。  そう思いながらなに気なく部屋の姿見を覗き込むと、硬く引きつった面持ちの自分がいた。行き慣れない場所に向かう緊張と初めて会う人への緊張。そして藤堂の手がかりが知れるかどうかという不安がない交ぜになっているからだろうか。握った両手のひらに少し汗をかいているような気もする。大きく深呼吸を繰り返して、気持ちを入れ替えた。 「なるようにしかならない」  自分に言い聞かせるように呟いて、ハンガーラックに掛かったピーコートを手に取った。するとそれと同時か、机の上に置いていた携帯電話が震えた。着信は短かったのでメールだろう。充電コードを抜き取り携帯電話を手に取ると、それを開いて受信ボックスを確認する。 「あ、ミナト」  メールの送信主はミナトだった。約束の日を覚えていてくれたようだ。届いたメールには「いい話が聞けるように祈ってる」という激励の言葉が綴られていた。絵文字いっぱいのキラキラとした賑やかなメールに思わず笑みが浮かぶ。何度かメールのやり取りをしたことがあるが、いつもミナトのメールは色とりどりで学生とやり取りしている気分になる。しかしおかげでほんの少し肩の力が抜けたかもしれない。  お礼を含めて「行ってきます」とメールに返事をして、コートに袖を通した。そしてポケットに携帯電話を突っ込み、ベッドの上に置いていた肩掛けの鞄を手に取る。 「よし、行くか」  斜めがけにした鞄の中身を確認してから、僕は腕時計に視線を落とした。時刻は十七時を少し回ったところだ。約束の時間は十九時で、ここから四十分もあれば着くのだが遅れるよりはいいだろう。

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