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第991話 別離 24-2
水を飲んでいるかのような飲みっぷりだからお酒が強い人なんだな。飲んでいる姿を思わず見つめると、視線が合いやんわりと微笑まれた。
なぜか何度となく視線がしっかりと合う。そしてそのたび優しく目を細めて微笑まれるのだが、どう対応したらいいものか困ってしまう。じっと目を見つめられて落ち着かない気持ちになるが、慌てても仕方がないし、目をそらすのも不自然だ。けれどまっすぐな視線を向けられる相手が僕ではなく女性だったら、間違いなく勘違いを起こしてしまいそうな状況だ。
「西岡さんは食が細いですね。少し華奢ですし」
「あまり太らない体質なので」
「抱きしめたらすっぽり収まってしまいそうだ」
「えっ?」
これはどういう意味なのだろう。普通は冗談でも男相手に抱きしめたら、なんて言わないものではないのか。けれど荻野さんの笑みは鉄壁な仮面のようでその真意が読み取れない。優しい笑顔に気を取られていたが、この人は腹の内を他人には見せないタイプのような気がした。
「あの」
「西岡さんはゲイっていうわけではないんですね」
そろそろ本題を切り出したい、そう思った時。ふいに荻野さんはなに気ない口調でぽつりと呟いた。一瞬なにを言われたのかわからなかったが、言葉を飲み込んでからようやく頭が理解した。もしかして先ほどまでのやり取りや視線は試されていたのだろうか。
「あ、はい。一応、結婚していた時期もありました」
「そうですよね。そのほうが西岡さんには似合ってると思いますよ」
「え?」
「あなたは妻子ある穏やかな家庭を築いていくほうが、向いてる気がします」
なんだろう、急に棘を感じた。笑みは変わらないのに言葉が少し冷たくて、その変化に戸惑ってしまう。しかしその裏を返せば、異性愛者でありながらもなぜ藤堂に関わろうとするのかと言いたいのかもしれない。彼は異性愛者が同性愛者を相手にしていることを快く思っていないのだろう。
「いま優哉と、付き合っているんですよね?」
「はい、付き合っています」
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