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第992話 別離 24-3
「どういう経緯でそうなったのかわかりませんが、正直言って賛同はできませんね。歳も随分と離れているようだし、優哉の将来を考えるとあなたは枷になる気がします」
淡々と発せられる荻野さんの言葉に胸が締めつけられた。藤堂の枷になる――それは僕が一番恐れていることだ。
「西岡さんはすごく性格もよくて、人に愛される素質を持った人なんだなと思いますよ」
言葉では褒めているけれど、荻野さんは冷たい突き放すような雰囲気を醸し出す。うろたえる僕を尻目に、荻野さんは日本酒のグラスを傾けてその中身を一気に飲み干した。そしてテーブルにグラスを戻すと、僕の目をじっと見つめてくる。
「西岡さん、どうして優哉なんですか」
真剣な眼差しが僕を捉えて逃さない。問いかけられた言葉に、僕は少し目を伏せて考えた。
「それは……正直に言うと、わかりません。けど藤堂じゃなければ駄目だって思ったんです」
そういえば以前、僕のどこがよくて好きになったんだって、藤堂に同じようなことを聞いたことがある。あの時の藤堂もわからないって答えたんだ。いま考えればその気持ちがわかるような気がする。理由なんて見つからないんだ。ただただ好きになってしまった。それだけなんだ。
いい大人が子供みたいな恋愛をしていると思われるかもしれないけれど、それでも藤堂が好きだから藤堂だから選んだとしか言いようがない。
「職を失うとしても?」
「はい」
僕の即答ぶりに、ほんの少しだけ荻野さんは驚いた表情を浮かべた。けれどすぐにその表情は険しいものに変わる。
「失うのは簡単ですけど、またやり直すのは簡単ではないですよ」
確かに辞めることは簡単だ、彼の言いたいことはわかる。人生そんなに甘いものではないと言いたいのだろう。それは想像が容易い。僕はこの十年ずっと教師しかしたことがない。ほかの世界などまったく知らない僕が、この歳でやり直すのは至難の業だ。けれど僕は藤堂の手を取った時に決めてしまった。
「優哉は弟みたいに思っている可愛いやつです。苦しんでいるのを見て、放ってはおけないと思うくらい大事ですよ」
「……いまの藤堂のこと、知ってるんですか」
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