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第993話 別離 24-4
やはり藤堂は荻野さんを頼って姿を消したのだろうか。けれどもしそうではないとしても、なにかを知っている口ぶりだ。藤堂がいま悩みを抱えて苦しんでいることを知っている。
「西岡さん、あいつの人生を背負えますか?」
「そ、それは」
「丸ごと全部、背負う覚悟がありますか?」
まっすぐな荻野さんの視線に言葉が詰まる。これは安請け合いをして容易く頷いていいことではない。僕は必死に頭の中で考えを巡らせた。それがどういう意味なのか、僕はどうすべきなのか。
「なにがあっても投げ出さない、それができますか」
真剣な荻野さんの言葉に僕は小さく深呼吸をした。人の人生を背負うのは簡単なことじゃない。それは一度経験して失敗をしたからわかる。
「荻野さん、僕には藤堂のいない人生は考えられません。僕の生きていく道に藤堂が必要です。もしその途中で藤堂が助けを必要とするなら、僕は必ず手を差し伸ばします」
けれどいくら考えても何度思い直しても、僕は隣に藤堂がいる人生を選んでしまう。それに僕は藤堂と一緒にいると決めた時、誓った。彼の優しさと愛情に報いるために、その手を決して離さないのだとそう心に誓ったんだ。
「俺は優哉にこれ以上の苦労はさせたくない。優哉はあなたが生きるための道具ではない」
「彼が望んでくれるのなら、僕は一緒に生きていきたいと思ってるんです。僕は藤堂の支えでありたい」
僕一人が幸せになりたいんじゃない。たとえ僕の生きる道が困難に満ちていようとも、藤堂を幸せにしてあげたい。彼が笑って生きていられるそんな人生を送らせてあげたい。
僕は捨てかけた人生を藤堂に救われて、彼に背中を押されて生きる意味を教えてもらった。だから僕にできることがあるなら、今度は僕がなにかしてあげたい。
「藤堂の居場所を知っているのなら教えてください。藤堂に会わせてください。いま苦しんでいるのなら、傍にいてあげたい」
まっすぐにこちらを見る視線を受けて、僕は座っていた座布団を横に避けると正座をして頭を下げた。額が床につくほど頭を下げる僕を、荻野さんはじっと静かに見つめていた。
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