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第995話 別離 25-2

 ふすまを引いて部屋を出て行く後ろ姿を見ながら、僕はほっと胸をなで下ろした。まだ第一関門をクリアしただけだから喜んでいる場合ではないのだが、居場所の特定ができそうだという安心感が湧いてくる。 「よかった、見つかった」  ずっと連絡がつかなくて居場所がわからなかったから、安否がずっと心配で不安だった。手がかりは荻野さんしかなかったので、宛てが外れていたら振り出しに戻るところだった。しかし手がかりらしい手がかりもなく、一発で当たりを引き当てたのはかなり奇跡的なことなんじゃないだろうか。  まだ僕と藤堂の縁は切れていないということか。まだ僕たちは繋がっていられる、そういうことならばいいなと、はやる胸を押さえ僕は大きく深呼吸した。  それから再び訪れた静寂の中で荻野さんを待った。音もないほどの静けさは待っている時間を随分と長いもののように感じさせる。そういえば時計があったのだと、気がついたのは十五分くらい過ぎてからだろうか。腕時計を見るともう少しで二十時半になるところだった。ここに来たのは十九時だから、思っていたより時間が過ぎていた。 「あっ」  ぼんやりと壁を見つめたまま少し放心していたら、急に微かな音を立てふすまが開いた。それに気がついた僕は、気の抜けていた佇まいを直し慌てて正座する。 「寛いでいていいですよ」 「いえ」 「そんなに緊張しないでください」  向かい側に腰を下ろした荻野さんは僕の顔を見て目を細めて笑った。そんなに緊張が顔に出ていただろうかと、思わず頬に両手を当てたら、吹き出すようにして笑われた。 「あなたは本当に素直で可愛い人ですね」 「え?」 「俺にはやはりあなたには普通の優しい家庭が似合う気がしているんですが、あなたはそれを望まないんですね」  僕に非があって藤堂とのことを認めてくれないのだとそう思っていたが、もしかして彼は僕のことまで気にかけてくれていたのだろうか。予想外の言葉にうろたえていると、荻野さんは困ったような表情を浮かべて小さく笑う。

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