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第996話 別離 25-3

「俺は西岡さんが思っているほど優しい人間じゃありませんよ。俺の願いとしては、早々に別れてお互い最良の選択をして欲しいんですが」  やはり荻野さんの願いはそこなのか。けれどそれに僕は頷くことはできない。 「確かに、その願いは優しくないですね。それに僕にとって別れることは最良の選択とは言えません」 「あなたの、ではなくお互いの最良を考えてみてください」  まっすぐな言葉と眼差しに無意識のうちに目を伏せてしまった。最良の選択――それがいったいなんなのか、正直に言えばよくわからない。けれど僕にとっての選択は一つしかないし、藤堂もまだ僕のことを想ってくれていると信じている。伏せた目を持ち上げて、僕はまっすぐと前を向いた。 「僕は誰に止められても藤堂と一緒にいることを望んでしまいます」 「けれど優哉は、最愛であるはずのあなたにすら連絡を取っていない。いまあなたに助けを求めていないんですよ。それでも望みますか?」 「そうですね。藤堂は僕に頼ってくれていないけれど、僕が藤堂の傍を離れる時は、彼に僕を必要としないと言葉にして伝えられた時だけです。それに藤堂は不器用過ぎるほど不器用です。助けを求めないのではなく、求められないでいる可能性のほうが高いと思っています」  助けを求めてもらえないことは、すごく寂しくて歯がゆくて辛いことだ。けれど僕にとってはそれと傍を離れるということは別の問題だと思っている。僕が信じるのは藤堂の言葉だけだから、それ以外のことで心を揺らしていてはいけない。 「優哉の言葉を聞くまでは引かないと言うことですね」 「はい、それを聞かない限りは最良の選択はできません」  藤堂に会うまでは一歩も退けない。会ってその言葉を聞くまで僕はなにも手放すつもりはない。その意思を込めて荻野さんの視線を見つめ返すと、少し重たいため息を吐き出された。 「見かけによらず頑固ですね」 「すみません」 「いえ、そのくらいではないと優哉を預けてもいいとは思えませんしね」

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