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第997話 別離 25-4

 肩をすくめて笑った荻野さんの表情が少し和らいだ。もしかして少しは認めてもいいと思ってくれたのだろうか。そうであればいいと期待を込めた視線で荻野さんを見つめたら、やんわりと目を細めて微笑まれた。 「その日のうちに俺にたどり着く運も持ち合わせているようだし、期待してもいいのかな」 「会ってくださったことは感謝してます。荻野さんが会ってくれなかったらまだ途方に暮れていた」  ここまで僕は本当に運がよかったと思う。いなくなった藤堂はなんの手がかりも残していかなかったというのに、こうして荻野さんに会い藤堂のところまでたどり着いた。人生の運をすべてここで使い果たしているのではないだろうかと、そう思わずにいられないくらいだ。 「まさか優哉が誰にも連絡を取らないとは思わなかったのですよ。近いうちに連絡がいくだろうと思っていたんですけどね」 「あ、だから会う日を先延ばしにしたんですか」 「ええ、わざわざ俺が出るまでもないと思っていたので」  確かに普通ならその日に連絡ができなくても後日連絡がいくだろうと、そう思ってもおかしくない。結果的にはいい方向へ進んだけれど、僕の行動は焦り過ぎているように見えたかもしれない。けれどあの時の藤堂はすでにかなり追い詰められていたし、このまま音信不通になる恐れは大いにあった。周りから見れば大げさでも僕の目から見たら、焦らずにはいられない状況だった。 「本当は優哉が連絡を絶つような頼りにならない恋人は、もっとなじって切り捨ててやりたかったんですけど」 「気持ちを改めていただけて、助かりました」 「西岡さんには少しほだされたかな。こじれやすい優哉には、あなたくらいまっすぐな人がいいんでしょうね」  大きく息をついた荻野さんは肩をすくめて笑う。至極優しく微笑んだ荻野さんに僕は少し戸惑ってしまった。いままでのやり取りから見ても、まさかそんな笑みを見せてもらえるとは思わない。けれど荻野さんは僕をまっすぐに見つめて、少し眩しそうに目を細めた。

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