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第999話 別離 26-2
長い沈黙の分だけどんどんと焦りが湧いてくる。しかしそんな僕の心中とは裏腹に、ゆっくりと視線を持ち上げた荻野さんはふっと優しく笑った。
「いえ、気難しくはないですよ。ただ少し気まぐれな人なんですが、西岡さんなら大丈夫かな」
「え? あ、そうですか」
悩ましげな表情を一変してにこやかに笑う荻野さん。これはまさか、からかわれたのだろうか。ほっと息をつき胸を撫で下ろした僕を、荻野さんはどこか楽しげに見ている。こんな状況で心臓に悪い冗談だ。
「西岡さんは本当に素直な人ですよね。いまちょっと怒ったでしょう?」
「お、怒ってません」
目を細めて笑った荻野さんは僕の反応を面白がっているようだ。確かに少しばかりムッとしたけれど、なんとなくそれを認めるのが嫌で思わず視線をそらしてしまった。
「ほら、すぐ顔に出る」
「え?」
ふいに伸びてきた手が、俯きそらした僕の視線を引き戻す。顎に添えられた指先に驚いていると、その指がそっと唇を撫でた。
「荻野、さん?」
「西岡さんは、主が好きそうなタイプですね。気をつけてくださいね」
手のひらで頬を撫でられて少し鳥肌が立ってしまった。気をつけろとはどういうことなのだろう。少し警戒して距離を置いたら、また楽しげに目を細めて笑われた。
「からかわないでください」
「からかっているつもりではないんですけど、少し心配になったので」
頬を撫でた手が髪に触れ、指先が髪を梳いていく。その感触に思わず肩を跳ね上げたら、荻野さんは小さく笑って優しくあやすように僕の髪を撫でた。
「し、心配していただくことはないです。荻野さん酔ってますか」
「ひどいな、酔っ払い扱いですか」
「さっきまでと態度が違い過ぎる」
話し合いをしていた時はもっと毅然とした態度や雰囲気だったのに、なぜかいまはやたらと雰囲気が甘くてその変化に戸惑ってしまう。またなにか試されているのだろうかと身構えてしまう僕に、荻野さんは肩を揺らして笑った。
「第一段階。俺の役目は終わったので、もうあなたにきつく当たる必要もないですからね。優哉のことがなかったら、西岡さんはなかなか俺の好みですよ。俺と主は好みが似ているんです」
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