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第1000話 別離 26-3

「そういう情報は結構です」 「そうですか、残念だな」  失念していたけれど、藤堂と一緒にあの店などに通っていたのだから、趣味嗜好は想像が容易いではないか。紳士的な笑みを浮かべてこちらに少し近づいてきた荻野さんに対し、僕はあからさま過ぎるほど大げさに後ろへ下がってしまった。  もしかして似ているのかなと最初に思いはしたが、荻野さんは峰岸と一緒で本気と冗談の境目がわかりにくい。本当によく似たタイプだった。 「すみませんが、本当に僕は藤堂以外こういうのは冗談でも嫌なので、やめてください」 「そうみたいですね。悪ふざけはもうやめにしましょう」  背後のドアに張り付く勢いで後退した僕を見て、荻野さんは息をつくと距離を置いて座り直してくれた。じっと窺うように見つめたら、両手を上げて肩をすくめられる。もうなにもしないというアピールだろうか。  かなりひやりとしたが、もしかしてこれは荻野さんなりの緊張を解く気遣いだったのか。しかし気遣いだったとしても、僕にとってはこれはあまり笑えない冗談だ。藤堂以外の男の人に言い寄られても嬉しいことは一つもない。 「一途で浮気の心配もない。真剣に将来も考えている相手だというのに、どうして一歩前へ踏み出せないのかな」 「え?」  ふいに窓の外へ視線を流した荻野さんの横顔には、先ほどまでのいたずらめいた雰囲気はない。とても眼差しは真剣で、そこには心配の色が浮かんでいた。いま傍で面倒を見ているということは、荻野さんは誰よりも藤堂の近くにいるのだろう。藤堂はいまどんな状況でいるのか、それがとても気になる。 「あの、いま藤堂は」 「うーん、優哉はいま、殻に閉じこもってる状態、かな」  僕の声に振り返った荻野さんは、少し困ったような表情を浮かべた。 「やっぱり両親のことや伯父のことで気を病んでいるんですか」  入院している時から上の空になることが増えていたくらいだ。殻に閉じこもっていると言われるということは、それよりもっと状態が悪くなっているということだろう。 「それも一つですけど、主原因はまた別かな」 「ほかになにかあるんですか?」 「それはうちの主から詳しく聞くといいですよ」  ほかに藤堂が気に病むこととはなんだろう。僕とのこと、だろうか。

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