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第1003話 別離 27-2
エレベーターを降りて店の入り口へと向かうと、受付にいた人がこちらを見てにこやかな笑みを浮かべて頭を下げた。
「荻野様いらっしゃいませ」
「もう来てるかな」
「はい、ご案内します。君、二十五番にご案内して」
受付の人はちょうどこちらへやって来た歳若い店員に、僕たちを案内するよう指示を出す。それを心得ていたかのように店員は満面の笑みを浮かべ、僕たちを先導した。
すでにこの店の常連なのだろう荻野さんは、慣れた様子でほの明るい店内を進んでいく。この店はワンフロアすべてが客席になっているようだ。バーテンダーのいるカウンターバーのほかに、テーブル席が五十席くらいはあるだろうか。席は一つひとつがほどよく離れていて、落ち着いて会話をできそうだなと思った。そして特に窓際の席がお勧めなのだろう。ガラス張りの窓の向こうは静かな夜景だ。ここは高層階だから見晴らしもいい。
「あちらでお待ちになっております」
先を歩く店員のあとをついて行くと、彼は右腕を上げ店の中程にある窓際の席を指し示した。数メートル先にはこちらに背を向け座っている人がいる。
「あそこにいるのが主です。俺はこの辺りで待っていますので、なにかあれば呼んでください」
「え? 荻野さんは一緒じゃないんですか?」
「ええ、俺がいると二対一になってしまいますよ。それに二人のほうが話も聞きやすいでしょう」
同席してくれると思っていた荻野さんの唐突な言葉に、激しくうろたえてしまった。まさか一人で向かうことになるとは思わなかった。背中を押されて思わず一歩踏み出すが、踏み出した足はそこで止まってしまう。一度落ち着いたのにまた緊張してきた気がする。しかしあと数メートルだ。こんなところでもたもたしている場合ではない。
待たせ過ぎて気分を害してしまったら大変ではないか。それで藤堂に会えなくなるだなんてことになったら、せっかくここまで来た意味がなくなってしまう。
「よし」
深呼吸をして息を整えると、僕は意を決して足を踏み出した。
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