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第1005話 別離 27-4

「驚きましたよ。佐樹にこんなところで会うなんて」 「僕もいますごく驚いています。まさか時雨さんがいるとは思わなくて」 「どんな男が来るのかと警戒していたんですけどね。少し拍子抜けしました」  肩をすくめて笑う時雨さんに、思わず苦笑いを返してしまった。荻野さんはいったい僕のことをどんな風に説明したのだろう。ちらりと視線を後ろに流すと、離れた席に座っていた荻野さんと視線が合った。ひらひらと振られた手に思わずため息がこぼれてしまう。きっと好印象を与える説明はされていなかったに違いない。 「それにしてもどうして時雨さんが藤堂を保護することになったんですか? 荻野さんの知り合いだから、ですか?」 「いえ、奈智が優哉と面識があったのは偶然ですよ。それには私も驚きました。保護という言葉が正しいのかわかりませんが、私が優哉を病院から連れ出しました」 「連れ出す?」  てっきり藤堂は自分の意志で病院を退院したのだと思っていたが、そうではなかったのだろうか。もしかして時雨さんの助言かなにかを受けて身を隠すことにしたのか。 「あのままでは追い詰められていく一方でしたから」 「その原因は伯父や両親のことですか? それとも僕でしょうか」 「優哉を取り巻くすべて、ですね。それには私も含まれていますよ」  少し悲しそうな目をした時雨さんは、俯きテーブルに置かれたグラスを手に取ると、琥珀色の液体を喉に流し込む。そして小さく息をついた。 「時雨さんと藤堂の関係っていったい」 「優哉は私の大事な子です」  僕の問いかけに時雨さんは、手にしたグラスをテーブルに戻しふっと目を細めて笑う。その表情に思わず胸がドキリとしてしまった。違うとわかっているのに重なる表情にいちいち反応してしまう。なにげない表情までもよく似ている藤堂と時雨さん。これは偶然なのか、それとも必然なのか。僕はそれを確かめるようにまっすぐと時雨さんを見つめた。

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