1006 / 1096

第1006話 別離 28-1

 これはただの偶然にしては出来過ぎている。符合する二人。それを考えてふと時雨さんから聞いた話を思い出す。時雨さんの大事な子――それが藤堂であるならば、時雨さんの語っていた話となんとなく繋がる気がした。 「入院している甥っ子って、もしかして藤堂のことだったんですか?」 「そうですよ」  至極当然のように返ってきた答えに戸惑うけれど、別に時雨さんは隠しごとをしていたわけではない。お互い同一人物を見舞っていたことを知らなかっただけだ。 「ああ、そうか。そういうことだったんですね」 「え? なんですか?」  重くなりかけた雰囲気を打ち崩すように、時雨さんが突然なにやら楽しげに両手を叩いた。 「あの時、佐樹が可愛い顔をして私を見ていたのは、優哉と私を重ねていたからなんですね」 「え、かわ、えっ?」  ふいになにかを思い出したかのように僕を指さした時雨さんは、急にとんでもないことを言い出した。それに驚いて時雨さんから顔をそらしたら、伸びてきた指先に顎をすくわれる。 「私を一目見た時から頬を染めて、見つめてきたまっすぐな視線。私に脈があるのかと期待していたのにとても残念です」 「え? あ、あの、すみません」  あの時の僕はそんなに感情が顔に出ていたのだろうか。確かに藤堂と重なって変にドキマギさせられたが、あとのほうはだいぶ落ち着いて対応できていたと思っていたのに。 「謝られると失恋した気持ちになって傷つきますよ」 「失恋っ! からかわないでください」 「本気だったのですけどね」  満面の笑みを浮かべてそんなことを言われても戸惑うばかりだ。荻野さんが言っていた好みが云々という話は、冗談ではなかったのだろうか。本気だとしたらそれは大いに困る。 「佐樹に怯えた顔をされると良心が痛みますね。アプローチはやめておきます。優哉の大事な人ですし」  そっと顎に添えられた手が離れて、思わずほっと息をついてしまった。失礼な態度なのはわかっているが、やはり藤堂ではないと身体がこわばってしまう。 「佐樹そんなに緊張しないで、なにか飲みますか」 「飲めないので、水で大丈夫です」

ともだちにシェアしよう!