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第1010話 別離 28-5
これからの未来をすべて捧げてもいいと思えるくらいに彼が好きで仕方がない。
「独りよがりなのはわかっています。けどこのまま終わりにしたくない」
随分前に見た夢が思い起こされて胸がひどく痛んだ。去りゆく背中を思い出すだけで、こらえていたものがあふれ出してしまう。あの時の予感がいまだなんて思いたくない。
「優哉は恋人を残していくことに強い抵抗を感じていました。だから私は恋人も連れて行くことも勧めたんです」
「え?」
「けれどそれに対しても、優哉は頷くことはなかった」
どうして離れる以外の選択肢があったというのに、藤堂は一緒に行くことを望んでくれなかったのだろう。望んでくれるのなら僕はどこへだって行くのに、どこへだってついて行くのに――なぜ?
「おそらく、あなたにすべてを捨てさせることができなかったんですよ」
「捨てる? すべてを?」
時雨さんの言葉に僕は弾かれるように顔を上げた。すべてを捨てる――それは家族、友人、学校や僕の日常、そのすべてだ。けれどそれを秤にかけても、僕は藤堂を選ぶに決まっている。彼が自分を望んでくれることのほうがずっと重要だ。
「馬鹿だ、藤堂は本当に馬鹿だ。そんなの一生帰れないわけじゃないのに、藤堂がいてくれればそれだけでいいのに」
いつもそうだ。藤堂は人のことばかり考えて、考え過ぎて自分を追い詰めてしまう。やっぱり僕のことが藤堂を苦しめている原因だったんだ。それでも藤堂も離れたくないと思ってくれている。
「佐樹、答えは二択です。一人か、二人か、どちらを選ぶのか。二人で選択してください」
「……答えはどちらか」
僕たちはもっと言葉を伝え合わなければ、すれ違ったままだ。藤堂もずっと暗い出口のない道を歩き続けるばかりになってしまう。そんなの苦しくて辛いだけで幸せになんてなれない。だけどまだ間に合う。たった二つの選択しかなくても、僕たちはきっと最良の答えを選べるはずだ。
こぼれ落ちたものを拭うと、僕はまっすぐに時雨さんの瞳を見つめ返した。僕の視線に時雨さんは小さく頷き、優しく微笑んでくれた。
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