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第1011話 別離 29-1

 ようやく藤堂に会えるのだと、そう思うと心がやたらとはやる気がした。藤堂の身の回り一切の管理をしているという荻野さんに案内され、向かう先はホテルのスイートルーム。そこは狭い部屋に藤堂を閉じ込めておきたくないと、時雨さんが用意した部屋のようだ。その部屋で藤堂は毎日を過ごしているらしい。しかしホテルに来てから二週間ずっと閉じこもったままだというのは心配だ。 「とりあえず食事と風呂の世話だけは毎日欠かさずしてるので、栄養状態とかは悪くないと思いますよ」  ただ精神的にかなりふさぎ込んでいるので、医師がその都度様子を見に来ているようだ。精神安定剤や睡眠薬を処方されて飲んでいるという。  退院して伯父や父親と顔を合わせずに済むようになったのはよかったのかもしれないが、他人に気を使う時間がなくなった分だけ、自分の時間が増えて悩むことが多くなったのではないだろうか。一人の時間は一長一短で、藤堂に必要だったのかは考える部分がある。 「主は大人たちに追い詰められている優哉を見ていられなかったから連れ出した。けれど結果を見るとこれがよかったのかどうか」  僕が危惧したことは、荻野さんも感じているようで少し苦い顔をした。  ホテルでの藤堂は起きている時間はぼんやりと考えごとをして、寝ている時はうなされていることが多いらしい。藤堂は自分の悩みを他人に打ち明けるタイプではないから、傍で見ているしかできない荻野さんは、随分と歯がゆい思いをしているのかもしれない。 「そういえば、携帯ずっと繋がらなかったんですけど。なにか知ってますか?」 「ああ、ずっと優哉の携帯に川端の秘書と父親からの着信が絶えなくて、電源を落としていたんですよ。多分それでそのままなのかな」 「あの、事件のことや伯父のことは知っていますか?」  伯父の川端が逮捕されいまは拘束されていることを、藤堂や荻野さんたちはもうすでに知っているのだろうか。

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