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第1012話 別離 29-2

 僕たちの事件については取り上げられなかったけれど、別件で逮捕されたと言うニュースは新聞にも小さくだが載っていた。藤堂が知らなくても、荻野さんや時雨さんなら知っていそうな気がするのだが。 「川端が逮捕されたらしいというのは知ってますよ」 「じゃあ、もう藤堂は隠れたり逃げたりしなくても」 「それが簡単にはいかないんですよ。川端のほうではまだ優哉を引き取るつもりでいるようです。ですがこちらも優哉をよそへやるつもりはありませんので、母親の承諾を川端がいないあいだに取るつもりでいます」 「え、でも」  母親は精神状態が悪くて入院しているのではないのか。しかし僕の浮かべた疑問に、荻野さんは口の端をゆるりと持ち上げ不敵な笑みを見せた。もしかしてそれも見越して強硬手段をとるつもりだろうか。病院側は藤堂と伯父が険悪なのを知っているし、藤堂が望みさえすれば時雨さんのほうへ肩入れする可能性は高い。 「まだなにも解決していなかったんですね。伯父がまだ藤堂に執着してるとは思いませんでした」 「藤堂彩香が望むことだからでしょう。色ぼけ親父も大概にしてもらいたいですね」 「え?」  呆れたような口調で肩をすくめた荻野さんに思わず驚きの声を上げてしまった。けれどそんな僕を見て荻野さんは優しく目を細めて笑う。 「優哉のことは悪いようにはしません。それは約束します」 「はい、伯父のところで辛い思いをするより、時雨さんのところでやり直してくれるほうが安心できます」  本当は日本でいままで通り過ごせるのが一番嬉しいのだが、いまの複雑な状況を脱するには新しい環境に藤堂を移すことのほうが望ましいだろう。 「西岡さんにも色々な決断を迫ってしまって申し訳なく思っています。けれどあなたが優哉の救世主になってくれるといいのですが」

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