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第1013話 別離 29-3

「僕も、そうでありたいです」  こちらに視線を向ける荻野さんを見つめ返し、僕は小さく息をついた。僕が傍に行くことでなにかが変わればいいのだけれど、藤堂は僕に手を伸ばしてくれるだろうか。傷ついて疲弊した彼を僕はちゃんと救ってあげられるのか、それが心配でならない。  早く会ってその存在を確かめて、触れて抱きしめたい。はやる気持ちがますます加速するような気がした。早く安心したいのかもしれない。 「もしかしたらいまの時間、優哉はもう眠ってるかもしれません。そうしたら西岡さんがよければ泊まっていってください」 「……」  ぼんやりと藤堂のこと考え、床を見つめながら歩いていたら、斜め前を歩いていた荻野さんが急に立ち止まった。慌てて顔を上げて見ると、振り返った荻野さんが僕の顔を覗き込んでいた。 「大丈夫ですか? 西岡さんまで落ち込まないでくださいね」 「あ、はい。大丈夫です」 「優哉のこと頼みますね」  こんなところで落ち込んでいる場合じゃない。ここまで来て弱気になるなんて情けないやつだ。僕がしっかりしなくちゃ駄目だろう。伸ばされる手を待つんじゃなく、僕がその手を掴んであげなくてどうする。  心配げな荻野さんの表情を見て気合いを入れ直すと、僕はまっすぐ前を向いて頷き返した。そんな僕の返事に荻野さんは少しほっとしたような笑みを浮かべる。 「ではこの先はよろしくお願いします」 「ここ、ですか」  目の前に立つ荻野さんの背後には、木目調の重厚な作りの二枚扉があった。そこは僕がいままで利用したことのある、ツインやシングルなどの部屋とは明らかに違う特別感がある。  スーツの内ポケットから取り出したカードキーを使い、荻野さんは扉の鍵を解錠した。

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