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第1014話 別離 29-4

 押し開かれたドアの向こうは入り口部分は明るいが部屋の奥は薄暗く、間接照明から放たれるオレンジの明かりがぼんやりと見える。 「電気が消えてるってことはやっぱり寝てるのかな。泊まり、大丈夫ですか?」 「はい、平気です」  特に明日の予定があるわけでもない。それに藤堂の傍にいられるのなら、むしろ喜んで泊まらせてもらう。 「隣のベッドも空いてるし、バスローブなんかもあるのでお風呂とか使ってくれていいですよ。お腹が空いたりのどが渇いたりしたら、自由にルームサービス頼んで構わないので」 「わかりました」 「では、今日はゆっくり休んでください」  小さく頭を下げた荻野さんに促され、僕は扉をくぐり部屋に入った。そしてそのまま進みまっすぐリビングの入り口まで行くと、背後でゆっくりと扉が閉まった音がする。  さらに部屋の奥へと歩いて行くと、広いリビングには大きなソファやテーブル、テレビなどがある。そのほかにもリビングから続くダイニングやキッチンも備えられており、生活するには十分過ぎるほどの環境設備だ。 「こっちは水場か、だとしたら寝室は向こうか」  部屋にある二つの扉。その片方を開いたらお風呂などがある水場だった。そっと扉を閉めてもう一つの扉へ視線を向ける。最初からそちらが寝室だと予測できていたのに、反対側の扉を開けたのは緊張のせいだろうか。早く会いたいのに会うことに少し戸惑っている。 「寝てるだろうって言ってたしな」  会ってすぐに顔を合わせて話すと言うことにはならないだろう。まだなにを話したらいいのか、正直言うとよくわからない。会ったら言いたいこともいっぱいあったはずなのに、いまはそれさえも浮かばない。  小さく息をついて僕は寝室へ続く扉を開いた。寝室の大きな窓にはブラインドカーテンが下ろされて、その隙間からこぼれる月の明かりが室内をほのかに照らしている。

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