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第1015話 別離 29-5

 部屋に足を踏み入れ扉が閉まると、しんとした中に微かなモーター音が聞こえてきた。なんの音だろうかと首を巡らし室内を見てみたら、部屋の隅に置かれた空気清浄機だった。それは加湿も備えているのか、部屋の中はホテル独特の乾燥した感じがまったくない。  広い部屋の中央にはベッドが二つ隙間なく並んでいる。その片方はベッドメイクされ整えられている。奥にあるベッドは掛け布団がめくれ上がり盛り上がっていた。なに気なく視線を奥へ向けて僕は思わず息を飲んでしまった。 「びっくりした」  暗がりでよく見えなかったけれど、目をこらすとベッドに腰かける背中が見えた。うずくまるように背中を丸めているのはおそらく藤堂だろう。無闇に近づいて驚かせないよう、ゆっくりと足を忍ばせ歩み寄る。やはりそこにいたのは藤堂で、一度はベッドに入っていたのか黒いバスローブ姿だった。暗闇溶け込んで見えなかったのは、着ているもののせいだったのか。 「藤堂?」  すぐ傍まで行っても藤堂は俯いたまま顔を上げない。もしかして眠っているのだろうかと、僕は床に膝をついて藤堂の顔を覗き込んでみた。膝に両腕を乗せて俯く藤堂は眉間にしわを寄せ、ぎゅっとなにかをこらえるように目を閉じている。あまりにも苦しそうに目を閉じているので、握り合わせている藤堂の手に思わず自分の手を重ねてしまう。 「大丈夫か?」  そっと手を伸ばし藤堂の頬に触れると、じんわりと微かな温かさを手のひらに感じる。確かに存在を感じさせるその温かなぬくもりに触れて、胸の強ばりが少し解けた気がした。けれど目の前の藤堂を見ていると心配が募る。 「藤堂」  なにを思って苦しんでいるのだろう。藤堂の心の内にあるものを、その目を開いて教えて欲しい。願い請うように僕は藤堂の手を握りしめた。

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