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第1017話 別離 30-2
肩を跳ね上げ、引こうとするそれを押し止めるように僕はとっさに手を握りしめた。
「逃げないでくれ。僕はお前とちゃんと話がしたい」
振り払われたらどうしようかと不安で胸がはやるが、震えるその手は僕を突き放しはしなかった。目を伏せて考え込むように俯いたあと、藤堂はまた僕をまっすぐに見つめた。そしてしばらくお互い見つめ合ったまま身じろぎもしなかったけれど、ゆっくりと瞬きをした藤堂がベッドから下りて僕へと手を伸ばす。跪くように身を屈め、藤堂は優しく僕の髪を梳き、そっと頬に触れる。
「佐樹さん、夢じゃ、ない?」
「夢なんかじゃない。いま触れてるだろ」
僕の存在を確かめるかのように、何度も藤堂は僕の髪を撫で頬に触れる。大きな手が頬を包む感触が優しくて、温かくて、胸がきゅっと締めつけられる気がした。嬉しいのに切ない気持ちが湧いて、心の中が苦しくなる。
「藤堂、会えてよかった」
「……駄目だ。俺なんかといたら」
「藤堂?」
触れたくて腕を伸ばしたら、その手を避けられてしまった。頬に触れていた手も離れて、一気に距離を置かれた気分になる。
藤堂と一緒にいてはいけない理由はなんだ。
「俺は……なに一つ守れない。約束も、佐樹さんのことも」
「藤堂、お前一人が頑張らなくたっていいんだ。なんでもそうやって抱え込むな」
なんでも自分の中に押し込んで、飲み込んで我慢してしまうのは彼の悪い癖だ。それがどれだけ藤堂を傷つけ苦しめているのか想像するしかできないけれど、きっとそれは心を蝕んで抉るほどに痛くて辛いのだろう。
「逃げないって決めたのに、諦めないって約束したのに、なにもできていない。俺はあなたを傷つけるしかできない。手を離さないって言ったのに、もう二度と一人にしないって」
感情があふれ出すかのように早口でまくし立てる藤堂は、なだめようと伸ばした僕の手を弾いて拒絶する。弾かれ打たれた手よりも胸が痛い。
「そんなのまだこれからだろう。急にいなくなって傷ついてないって言ったら嘘になるけど、それでも僕はお前が誰よりも大切で、必要で愛おしいって思ってる」
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