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第1018話 別離 30-3
小さな決意や約束が藤堂の心を縛っていたのだろうか。追い詰められるほど苦しめてしまっていたのか。心の癖を持った藤堂には、どれも重くのしかかるものだったのかもしれない。
「藤堂、辛い時は逃げてもいいんだぞ。頑張れなくなった時は寄りかかっていいんだ。一人で戦おうとするな」
いままでたくさんの約束を交わしてきた。傍にいようと、手を離さないでいようと約束した。そしてこの先の未来を諦めないでいようと指切りを交わした。でもそのせいで、藤堂は身動きができないほど苦しんでいたんだ。
きっと必死で立ち向かって戦っていたんだろう。けどそれ以上に現実が藤堂を傷つけた。
「どうしたらいいのか、もうわからないんです。俺といてもあなたは傷ついて辛いばかりで、苦しいばかりで」
「そんなことない。僕はお前の隣にいられるだけでいいんだ。辛くても苦しくても、それでも一緒にいたいんだよ」
両手で顔を覆い俯く藤堂は肩を落とし、背を丸め小さくしぼんでしまったかのようだ。僕と一緒にいることはやはり藤堂にとって辛くて苦しいことだったのだろうか。もしそうだったとしたら、胸が引き絞られるほどに痛くて悲しい。藤堂はずっとこんな痛みを抱えていたのか。
そんな藤堂に頑張れなんて言えない。けれどずっと殻に閉じこもっているわけにもいかないだろう。こんな時どうしたらいいのかわからないなんて、自分が頼りなさ過ぎて嫌になる。
「佐樹さん、俺のこと……忘れて、そうしたら」
「馬鹿なこと言うな! そんなことできるわけないだろう!」
僕が忘れることで藤堂は楽になるのだとしても、それだけは藤堂の願いでも聞けない。どうしたって藤堂を忘れるなんて無理だ。たった数時間、数日、数週間――どこにいるのかわからないだけでも不安で仕方がなかったのに、藤堂のことで頭がいっぱいになるくらいなのに、忘れるなんてできやしない。
「じゃあ、藤堂は僕のこと忘れられるのか?」
忘れて欲しくなんかない。でも言わずにはいられなかった。忘れろだなんて容易く言って欲しくないから、俯いた藤堂の手首を掴み、僕は顔を覆う手を下ろさせた。まっすぐに目を覗き込んで、戸惑いに揺れた瞳を見つめた。
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