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第1022話 別離 31-3

 跪き背を丸めるいまの藤堂はとても小さくてか弱い。膝を立てて立ち上がると、僕は藤堂の頭も肩も背中も全部、自分の全身で包み込むように抱きしめた。守ってやりたい、どんなことからも救ってやりたい。僕の心だって藤堂でいっぱいだ。 「俺はあなたがいないと生きていけない」  僕たちはもしかしたら強い依存関係にあるのかもしれない。お互いしか見えなくなるような、それ以外しか求められないような、ひどく危うい関係だ。それはなにかの拍子に絡まり切れてしまいそうな細い糸で繋がっている。 「失いたくない、けどもう傷つけたくないんだ」  強く惹き合いながら、藤堂も僕もこのままではいられないことに気づいている。もっと確かな絆になるよう、やはりどこかでこの関係は修正しなくてはいけない。もしかしたらそれがいまなのだろうか。 「あなたを俺の中に閉じ込めておきたい。でもそれはできないのもわかってる」  伸ばされた藤堂の手が僕の背をかき抱く。けれど痛いくらいの抱擁を僕はただ黙って受け止めた。藤堂はいま必死に自分の気持ちと向き合って、前を向こうとしている。彼の言葉すべてを受け入れるように僕は耳を澄ませた。 「佐樹さん、俺は何年先でもあなたといたい。俺のこの先の未来すべてを捧げてもいい」 「ああ、僕もだよ。それは僕も同じだ」  僕も同じことを思っていたよ。未来をすべて藤堂に預けてもいいって本気で思っている。だから何年先でも僕は藤堂のものだ。だから選んでいいよ――僕は藤堂が信じる道を選び取って欲しい。  きつく僕を抱きしめていた腕がゆっくりと解けていく。多分すでに僕は藤堂が選ぶ答えを知っている。 「藤堂、本当はもう決まっているんだろう」 「……」 「まだそれに迷いがあるから苦しい、そうだろ」  頑なに僕の日常を守ろうとする藤堂。僕を繋ぎ止めたいと願う藤堂。二つの想いは相反するけれど、そんな彼が導き出す答えは一つしかないんだ。

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