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第1023話 別離 31-4
彼は自分の苦しみや痛み、悲しみを抱えても僕を守ろうとする。
「僕は離れても、お前と共にあるよ」
ゆっくりと身体を起こした藤堂は、やがて顔を上げて僕をまっすぐに見つめる。悲しみをたたえていた瞳にはいつしか光が宿り始めた。その瞳を見つめて僕は言葉の先を促すように彼の両手を握った。助けてくれとすがった藤堂に必要だったのは、腕に閉じ込めて守ることじゃなくて、踏み出せずにいる背中を押すことだったんだ。
「佐樹さん」
「ん?」
「俺のこと、どれだけ待っていてくれますか?」
「いくらでも待つよ。お前が僕のところへ帰ってくるまでずっと」
離れるのが辛いと泣いていた藤堂の心は、本当はもうすでに答えを出していた。決まっているからこそ、気持ちのバランスが取れなくて涙がこぼれてしまったのだ。僕がこうして目の前に現れなかったら、もしかしたらなにも言わずに藤堂は旅立っていたのかもしれない。僕の前から姿を消したその時から、もう答えは決まっていたんだ。
でもなにも言わずに藤堂がいなくなっていたとしても、僕はきっと待っていただろう。これからそうするように、藤堂のことをずっと待ち続けて、遠い空を見上げていたと思う。
「ずっと待ってるよ」
「佐樹さん、こんなに身勝手な俺のこと、許してくれるの?」
「ああ、弱くて脆くて、すぐ逃げ出してしまう。そんなお前でも僕は好きだよ」
握りしめた手を強く握り返してくる藤堂の手は震えている。俯きかけた頬に口づけたら、温かな雫がこぼれ落ちてきた。次々とこぼれるその雫を拭って、僕は引き結ばれている唇にそっと自分の唇を重ねる。
どんなことがあっても僕は藤堂を想い続けるだろう。それが何年先だとしても、想いは絶対に色褪せない。僕はなんにだって誓える。僕の人生すべてを賭けて藤堂のことを愛し抜くことを。だからその気持ちが少しでも伝わるように、強く背中を抱きしめた。
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