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第1024話 別離 32-1

 離れることは辛いけれど、きっとこの距離は藤堂を変えてくれるはずだ。そう信じているからこそ、僕はその背中を押してあげられる。ゆっくりと身体を離して、まっすぐに藤堂の瞳を見つめた。涙で潤んだその目は薄明るい中でもキラキラして見えて、それに誘われるようにまぶたに口づけた。 「藤堂、どんなお前でも僕は許せる。どんなお前でも僕は好きだ。だけど、いまもこれから先も、もうお前の世界から放り出されるのは勘弁だ」 「一人でも、平気になりたかったんです。だけど佐樹さんの言葉を知るたびに会いたくなったし、離れているのが我慢できなくなりそうだった」  携帯電話に残したメッセージは全部伝わっていたんだ。一件だけの着信は、一人でいる我慢ができなくなったからなのだろう。もしあの時、僕が電話に出ていたとしたら、きっとなにかが大きく違っていたのかもしれない。それがどんな未来だったかいまはもうわからないけれど、どんな未来だったとしてもいまが最善だと思いたい。 「離れたら余計に佐樹さんが恋しくてたまらなくなった」 「我慢なんてするもんじゃないってわかっただろう」  不器用過ぎるほど不器用な藤堂。きっと独り閉じこもって僕のいない世界を想像していたに違いない。自分一人だけで生きていけるか試そうと思ったんだろう。馬鹿だな、誰も待っていない世界で我慢したって苦しいだけに決まってる。待ってくれている人がいるから頑張れるんだよ。 「佐樹さんのいない世界は真っ暗闇でした」 「離れるって、二度と会えないってことじゃないだろう」 「自信がなかったんです。あなたのいない世界で生きていくなんて想像できなくて」  離れたくないのに離れる。会いたいのに会えなくなる。触れたいのに、触れられなくなる。この矛盾の中で藤堂ができることは、自分を殺してすべての感情を押し込めることだった。けれど胸に押し込めた感情はあふれるほど膨れ上がって、心がひび割れそうになるほど藤堂を苦しめた。

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