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第1026話 別離 32-3

 愛情をたっぷり与えられて、望むことを自分で選び取っていけるそんな自由な世界だったらいい。これから先は誰の存在にも怯えることなく、のびのびと暮らして欲しい。 「向こうへ行ったら働きながら勉強をさせてくれるって言ってました」 「そうか、学校で勉強するより実践で覚えるほうが役に立つことが多いかもしれないな」 「もう店の候補は考えてあるから好きに選んでいいって」 「それは至れり尽くせりだ。ありがたく思って目いっぱい頑張らないといけないな」  ぽつりぽつりと語る藤堂の言葉を聞きながら、僕は未来を想像した。彼が時雨さんの元へ行くのはきっと藤堂のためになる。ここにいるだけでは経験できないことを体験して、それが将来に生かされる日が来るだろう。そうしたらきっと藤堂の夢も叶えてあげられる。 「でも少しだけ怖い。受け入れてもらえるか」 「大丈夫だよ。藤堂なら大丈夫だ」  これから未知な土地へ行き、会ったこともない家族と暮らす。不安は尽きないだろう。でも言葉にしていくうちに少しずつ藤堂の心が落ち着きを取り戻しているのが感じられた。躊躇いや不安はまだ拭えないけれど、心が確かに未来を形作り始めている。 「そうだ、いつか藤堂の店で一番のお客にしてくれよ」 「何年先ですか、それ」  僕の言葉に目を丸くし、ふっと笑みをこぼしたその表情に胸が高鳴った。藤堂はやっぱり笑った顔が一番似合う。 「んー、わかんないけど。でも何年後でも信じて待ってる」  夢を形にするために、家族を手に入れるために藤堂は旅立つんだ。それは僕にはできないことだから、しっかりと背中を押してあげたいと思う。そして何年か先の未来、もう一度藤堂の隣に立てるように僕も頑張らなくてはいけない。 「そうだ、学校は卒業しろよ。退学届は無効だからな。まったく、びっくりさせやがって」 「すみません。このままじゃ、もう傍にはいられないと思って」 「あんまり一人でなんでも決めるなよ。ちゃんと相談しろ。僕じゃなくてもいい。誰にでもいいから」

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