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第1027話 別離 32-4

「……わかりました。佐樹さんが、そう望むなら」 「途中で放り出したら駄目だ。全部ちゃんと片づけて、行くのはそれからだ」  あの退学届は僕が辞めることになってしまった時、自分も辞める覚悟をするためのものだった。けれど学校を辞めて旅立つ覚悟でもあったのではないだろうか。しかし藤堂は三年ずっと頑張ってきたのだ。ここで中途半端に終わらせたくはない。 「佐樹さんは、あれから学校はどうしました?」 「あー、うん。実はいまはずっと休んでる」 「え? なにかあったんですか?」  藤堂の問いかけに少し言葉を濁してしまった。しかしここで誤魔化しても仕方がない。藤堂もひどく焦ったように僕を見つめている。 「僕が生徒と付き合ってるって投書が学校にあったんだ。いま学校の審査待ち」 「もしかして川端ですか?」 「うん、多分な。でも新崎先生が免職処分にならないように動いてくれてるから、きっと大丈夫だ」  泣き出しそうに顔をゆがめた藤堂は僕をきつく抱きしめる。その抱擁を受け止めて、僕はなだめるように藤堂の背中を優しく叩いてあげた。僕からなにも奪いたくないとそう思っている藤堂だから、きっといま胸が苦しくて痛くてたまらないだろう。 「大丈夫だよ」 「俺の選択は間違っていたんでしょうか」 「どの選択でもそれがその時の最良なんだよ。間違いはない。僕だってこれからまだまだ頑張る」  せっかく藤堂が残してくれた道だ、ここでこのまま終わらせるつもりはない。もし万一に駄目になったとしても諦めるつもりはない。また最初からやり直す覚悟を決めた。それは簡単なことではないけれど、藤堂のためと思うならいくらでも頑張れる気がする。 「もしかしたら卒業式は見られないかもしれないけど、お前の卒業証書は一番に見せに来いよ」 「はい、頑張って卒業しますね」  まだ少し悔やむ気持ちが残っているのか藤堂の表情は晴れない。けれど不安をいっぱい胸にためた藤堂のぎこちない笑みがひどく愛おしいと思った。

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