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第1030話 別離 33-3
勢いよく引き寄せられてベッドの上に身体と腕を押さえつけられる。中途半端に落ちたスラックスが足に絡み、身動きが取れなくなった。
「あんまり煽らないで、我慢できる自信がなくなります」
「我慢、するんだ」
眉間にしわを寄せて僕を見下ろす藤堂の瞳の奥は熱を孕んでいた。けれどそれを押さえ込もうとするほどに僕の内でくすぶるものは高まっていく。足先で行儀悪くスラックスを滑り落とすと、素足を藤堂に寄せる。
「……っ、佐樹さん! これでも反省してるんです。あなたを不安にさせて傷つけたこと」
「じゃあ、不安も傷も消えるくらいに抱きしめてくれたら許す」
僕の不安や傷なんかよりも、僕は藤堂の不安と傷を消してあげたい。あんな風に打ちひしがれて泣く藤堂はできればもう見たくない。あんな風にボロボロになった藤堂を見るのは、どんな出来事よりもずっと僕には辛い。そんなことを考えるくらいなら、全部忘れるくらいに抱きしめて欲しい。
「この傷、残りますね」
「うん、けどもう大丈夫だ」
両腕を押さえていた手が解けて、僕の右腕を優しく撫でた。肘から手首にかけて刻まれた傷跡は薄まるかもしれないけれど、多分ずっと消えない。これを見るたびに藤堂は思い出してしまうだろうか。罪悪感に苛まれることになるのは嫌だな。
「藤堂は? もう大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。もう傷は塞がっています」
「そっか、でも無理はできないよな」
バスローブの合わせ目からそっと手を滑り込ませると、藤堂の右脇腹を撫でた。小さな傷口は医療用のテープに覆われている。医師は一か月で退院できると言っていたが、無理をしたら傷口が開く可能性もあるかもしれない。
「佐樹さんに触れるくらいはできますよ」
「そんなに僕は物欲しそうにしてる?」
「瞳の奥に熱を感じるくらいには」
「だって、ずっと藤堂に触れてなかった」
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