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第1032話 別離 33-5
それでもなお追い詰めるように耳の縁を唇で撫でられ、何度もあられもない声が漏れて羞恥で頬が熱くなった。
「佐樹さんの声を聞くだけでゾクゾクする。まるで媚薬みたいだ」
「恥ずかしいこと言うな」
「どこに触れても甘いし、佐樹さんにかじり付きたい気分になる」
囁く藤堂の声のほうがずっとゾクゾクするし、媚薬みたいに僕を惑わせる。そんな甘やかな声を塞ぎたくて指先で唇を覆ったら、容易く指先に囓りつかれた。そして付け根から先までたっぷりと舐められる。その瞬間、背筋に甘い痺れがよぎり思わず小さく声が漏れてしまった。
それと同時に火をつけられたみたいに顔が熱くなる。自分でもわかるくらいに紅潮して、それが恥ずかしくて目を伏せた。けれど藤堂はそれを許してはくれず、肌に感じるほどの視線を向けてくる。その視線にゆっくりと目を向けると、やんわりと微笑んだ藤堂に頬を撫でられた。
「藤堂が、笑ってる顔が一番好きだ」
「好きなのに、どうしてそんなに泣きそうな顔をするんですか?」
「違う、これは、幸せで胸が苦しいから」
「どうしたら苦しくなくなりますか?」
「……もっと抱きしめて、僕の中からお前が消えないように、ちゃんと刻みつけておいてくれ」
優しい笑顔に胸が締めつけられて、幸せなはずなのに涙があふれてしまった。まだ先だけれど、離れてしまうんだって実感したら、急に心が切なくなる。
腕を伸ばしたら抱き寄せるように身体を包み込まれた。そのぬくもりが嬉しくて、僕は肩口に頬を寄せて微かに感じる音に耳を澄ませる。とくんとくんと脈打つその音は藤堂の存在を感じさせてくれるようで、ひどく安心をさせてくれた。次第に僕の音も寄り添うように緩やかな音を奏で始める。
僕はこの鼓動をずっと忘れないでいようと思う。この優しい高鳴りは僕を感じていてくれる。だから藤堂の想いはずっと傍にいてくれるはずだ。
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