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第1033話 別離 34-1

 ひたすら二人で抱きしめ合って、お互いに腕の中に閉じ込める。それだけで切なさに染められていた心は少しずつ満たされていく。これから残された時間の中で、あふれるくらいに藤堂を心の中に詰め込もう。いつでも思い出せるように、泣き言なんか言わないように。そして藤堂が僕を忘れてしまわないように、何度も想いを伝えておこう。藤堂の中も僕で満たしてしまいたい。 「佐樹さん身体ちょっと冷たくなってきた。寒くない?」 「大丈夫だ」  そっと髪に頬ずりされてくすぐったさに肩をすくめたら、首筋に唇が触れた。思っているよりも熱を感じるその感触に、驚いて大げさなほど肩を跳ね上げてしまう。先ほどまで火照ってい身体は、ほんの少し外気にさらされ冷めてしまったかもしれない。抱きしめ合っていたから気づかなかったけれど、それを感じたら無意識に肩が震えた。 「風邪引くよ」 「あ、こっち見るな」  柔らかな白いブランケットを引き寄せた藤堂は、僕の身体を覆うと両腕で抱きしめてくれる。そして顔を覗き込もうと顔を傾けた。それに気づいた僕は慌てて身をよじり、藤堂に背を向ける。惚けて緩んだ顔まで見られそうで恥ずかしかった。先ほどまで散々、口づけも行為もねだっていたのだから、今更なのだが素面に戻るとやはり羞恥心のほうが強くなる。 「佐樹さんのうなじ色っぽいね。肌が白いから赤くなってるとすぐわかる」 「変なことばっかり言うな」  後ろを向いたことでまた辱められるとは思わなかった。気恥ずかしくなって俯き膝を抱えたら、ふいにブランケットの隙間から覗く左手をすくい上げられた。 「藤堂?」 「指輪、たまにはしてくれてますか?」  ぽつりと呟いた藤堂は僕の薬指を優しく撫でる。そしてなにもないそこを、少し寂しそうな顔で見つめていた。その横顔に胸をぎゅっと鷲掴まれるような思いがする。 「してる! 学校以外はずっとしてる。でも今日は荻野さんに会うのに、変に主張してるみたいでおかしいかなって思って、外してたんだ」  こんなに寂しそうな顔をさせるなら気後れせずにつけていればよかった。

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