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第1034話 別離 34-2

 指先を撫でる手を握り返したら、藤堂は僕の首筋にすり寄り優しくそこに口づけてくれる。 「奈智さんに会ったんですか?」 「ああ、時雨さんにも会ったよ。二人がいなかったら藤堂に会えなかった」 「ふぅん、そう」  なんだか急に声がふて腐れて、ちょっとだけ藤堂は不服そうだ。あまり二人に僕を会わせたくなかったのだろうか。けれど自分が蒔いた種であることもわかっているのか、不満を言葉にはしなかった。 「二人に誘惑されなかった?」 「えっ?」  なぜそんなことを知っているのだろうと、驚きで心臓が大きく跳ねた。そんな動揺は悟られているのか、小さなため息が耳元に微かな息を吹きかける。肌を撫でるようなくすぐったさに肩をすくめたら、強くその肩を抱きしめられた。 「奈智さんの好みは佐樹さんみたいなタイプだし、時雨さんは嫌になるくらい見た目も性質も俺とそっくりなんですよ。だから簡単に二人の反応は想像できてしまうんです」 「時雨さんはあれだけ似ていると、お前の本当の父親は時雨さんなんだって言われても信じると思う」 「性格は全然違いますけどね」 「そこまで似てたら逆に怖い」  再び吐き出された藤堂のため息に、僕は思わず笑ってしまった。藤堂としては自分によく似た人を目の前にして戸惑うところがあるのかもしれない。でもそれはなんだか本当の家族って気がして、僕はいいと思う。 「本当に大丈夫だったんですか? 変なことされませんでした?」 「あ、うん。ちょっとだけ声をかけられたけど。僕は藤堂以外の男の人は無理だからちゃんと断ったぞ」  二人のあれは本気とも冗談ともわからないようなものだったけれど、意図を持って触れられていると思えば肩が震えた。藤堂以外の人からそんな風に意識されるとどうしたらいいのかわからなくなる。正直言えば少し怖いとさえ思う。優しく髪を撫でられても、藤堂に触れられている時のような安堵はない。 「本当に? 時雨さんでも?」 「えっ? あ、それはその、確かに藤堂にはすごく似てるから、初めて会った時はかなり意識しちゃったけど。やっぱり藤堂とは違うし、触れられるとやっぱり違うって思うんだ」

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