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第1035話 別離 34-3
「ほかの男に触らせたの?」
それはすべて不可抗力だったのだと、そう言ったら藤堂の機嫌は直るだろうか。それとも隙があることを怒られてしまうだろうか。恐る恐る藤堂の横顔を振り返ったら、ふっと小さく息をつかれた。
「すみません。いまのは嫉妬です。忘れてください」
「え?」
もっとなにか言われるかと思っていたのに、意外にもあっさりと藤堂が折れた。それに驚いてまじまじと目を見つめたら、気まずそうに視線がそらされる。けれど月明かりの下でも藤堂の頬が赤く染まっているのがわかった。
その顔を見て僕はにやけるように頬を緩めてしまう。藤堂がしてくれる嫉妬が僕を喜ばせるのだということに、まだ本人は気づいていないようだ。
「今回のことはすべて俺に非があるので、なにがあったとしても佐樹さんを責めるのは間違ってる。……でも」
「でも?」
「指輪はして欲しいです。ほかの男に会うならなおさら」
目を伏せながらぽつりと呟いた藤堂。その小さなヤキモチが心を浮き立たせるほどに嬉しい。先ほどよりも赤くなった頬に、僕はそっと手を伸ばして優しく撫でた。するとそらされていた視線がこちらに向き直り、数センチ先で視線が絡み合う。そして小さく顔を傾けた藤堂の仕草に、その先を読んだ僕はそっと目をつむる。
やんわりと触れた唇に、僕の気持ちは跳ね上がるように高まっていく。
「うん、わかった。これからは外さないことにする。そうだ、藤堂」
「なんですか?」
「鞄を取りたい」
不思議そうに目を瞬かせた藤堂の腕を軽く叩くと、やや間をおいてから気づいたのかふっと笑みを浮かべる。そしてきつく抱きしめていた腕を解くとブランケットで僕をしっかりと包み、藤堂はベッドから下りて床に放って置かれた鞄に歩み寄る。
「はい、どうぞ」
「うん、ありがとう」
傍へ戻ってきた藤堂に目の前へ座るよう促すと、僕は手渡された鞄の中から小さな巾着とキーケースを取り出した。
「藤堂、僕の指にはめて」
キーケースから取り出したシルバーリングを手渡すと、僕は藤堂の目の前に左手を差し出した。すると藤堂はそっと僕の手を取り薬指に指輪をはめてくれた。
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