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第1036話 別離 34-4
「じゃあ、藤堂も左手出して」
「え?」
「ほら、早く」
「わかりました」
まったく状況を飲み込めていない藤堂は、僕の一挙一動をじっと見つめている。僕はというと小さな巾着の中身を取り出し、藤堂の左手を取るとそれを薬指にあてがった。
「佐樹さん! これ」
「本当はクリスマス用に買ったんだ。でもいまかなって思って」
藤堂の薬指にはブラックプラチナの少し幅の広いデザインリングがはめられている。リングに刻まれたデザインはさほど派手さはなく普段使いできる範囲だと思う。藤堂の綺麗な長い指によく似合う。
「藤堂、向こうにいるあいだずっとつけていてくれよ。虫除けくらいにはなるだろう」
はめられた指輪をとんとんと指先で軽く叩き、僕はじっとそれを見つめている藤堂の顔を覗き込む。
「気に入らない?」
「そんなわけないでしょう! 佐樹さんからプレゼントをもらえるなんて夢にも思わなかった。外しません、ずっと」
「よかった。お揃いじゃないけど僕たちのペアリングな」
左手を持ち上げて藤堂の手のひらと合わせると、重なり合った指輪がカチリと音を立てる。それがなんだかひどく嬉しくて、僕はふやけきった笑みを浮かべてしまう。ようやく僕と藤堂を繋ぐものができた気がする。そう思うだけで心が勇気づけられた。
「うん、これで離れてても寂しくない。お前がいてくれる気持ちになれる。お前もそう思ってくれたらこれから頑張れる」
「これを見るたび何度でも佐樹さんを思い出せる。あなたが俺を想ってくれる証しにします。佐樹さんのために頑張りますね」
「藤堂、一緒に頑張ろうな」
これからそれぞれの場所で、僕たちは力の限り頑張って生きていくのだ。再び会える時にがっかりさせないように、人としてもっと成長していたい。離れていた時間さえもお互いのプラスになるように、大切に時間を過ごしていきたい。そして再び会う時は笑顔で「おかえり」と言うのだ。
[別離/end]
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