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第1038話 始まり 1-2

 申し訳ないと思ってはいるけれど、もはやこれは条件反射というものだ。もう変えるに変えられないので、このまま間宮と呼ばせてもらおう。  ぶつぶつと文句を呟きながらも半ば諦めている様子の間宮は、僕の目の前で大げさなほど肩を落とす。 「悪いと思ってるよ」 「まあ、西岡先生なので、いいですけど」  あの一件以来、僕と間宮の距離は一度は大きく離れた。職場に復帰後、いきなりこの男が僕に距離を置いてきたのだ。当初は避けるようにして僕に関わらず、口を利かない目も合わせないという状態だった。でもそれが気に入らなかった僕は、こちらから思いきり近づき距離を埋めていった。  一年のブランクもあって周りはそれほど気に留めていなかったけれど、なんとなく空けられたその距離が腹立たしかったのだ。そんな僕に間宮は大いに慌て戸惑い、見ているのが愉快なくらいだった。変な罪悪感を持って接しようとするからだ、ざまあみろと正直言えばそう思った。  随分とひねくれた対応をしたけれど、いまはまた前のような距離感に戻った。以前ほど教科準備室へ来ることはなくなったが、明らかに避けられることがなくなったのでよしとしている。 「ところでなにか用だったのか?」 「あ、そうだ!」  行く手を遮られていることに僕が首を傾げたら、間宮は慌てた様子で道を空ける。そして自分の任務を思い出したのか両拳を握った。 「あの! 飯田さんから美味しそうな焼き菓子が届いたので、みんなでお茶にしませんか?」 「ああ、飯田かぁ、元気にしてるかな」  どうやら間宮の用事はおやつの誘いだったようだ。放課後になると手の空いた先生たちが集まって、会議という名ばかりの集会が開かれる。お茶にお菓子も広げてそれは和やかな集まりだ。今日はどうやら飯田から送られてきたお菓子がメインのようだ。  僕の唯一の同期だった飯田は今年の春に退職した。実家の家業を継ぐのだという話だった。それまであまり実家の話は聞いたことはなかったが、両親が和菓子屋を営んでいるのだという。

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