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第1044話 始まり 2-4
「あ、そういえば、前にさ。なんで僕に教師になったんだって聞いてたけど。あの頃から考えてたのか?」
「……まあ、そうだな」
「ふぅん、そうなんだ。お前に与えた影響があるなら、正直言って嬉しいよ」
「センセを見てたら、そういうのも悪くないかと思ったんだよ」
「でもモデルの仕事もかなり充実してたのに、迷わなかったのか?」
何度も雑誌の表紙を飾ることもあったくらいだ。人気だってかなりあったのだろう。地味に教師をするよりも、峰岸にはそっちのほうが似合っている気がしたのだが。
「あれは俺みたいな中途半端なのが続けていい仕事じゃねぇし、最初から大学卒業までって決めてたからな」
「お前は偉いな。ちゃんと自分の道を選択してる。僕なんて最初からこれしか考えてなかったから、駄目だった時のことすら考えてなかった。いま続けられているのも周りの人のおかげだし、一人じゃきっとなにも選択できなかったよ」
「センセはいまのままでいいんだよ。あんたがいるから俺たちはまっすぐに歩いてこられたんだ」
「や、やめろよ。峰岸に褒められるなんて、なんかくすぐったい」
どこにでもいるようなごくごく平凡な教師である僕が、誰かのためになっているのかと思えばそれ以上に幸せなことはない。教師としての役目をしっかり果たせていると言うことだ。あの時、あのまま辞めてしまうことにならなくてよかった。まだ僕が頑張る場所を与えてくれたみんなには感謝をしなければいけない。
「センセは俺たちの指針みたいなもんだ」
「そんなに大層なことしてるつもりないけどな」
「そこがセンセのいいところだろ」
「褒め過ぎだ」
僕たちの時間は確かに流れているけれど、変わらぬものがそこにはあってほっとした気持ちになる。新しいことを始めたり、新しい場所でスタートしたり、みんな色んな道を歩き出した。だけどそこにある温かさはなに一つ変わらない。それがひどく嬉しいなと思った。
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