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第1046話 始まり 3-2
「悪い、待たせた」
「大丈夫だよ、まだ時間はあるから」
駆け寄る僕に向けられた三島の笑顔は相変わらず穏やかで和む。その笑みにほっと息をつきながら彼を見上げると、小さく首を傾げて僕を見つめる。三島には春頃にも一度会っているが、なんだか少し見ないあいだに身体付きがよくなったような気がする。
以前はひょろりと背の高い印象だったけれど、細さをあまり感じなくなった。それは肉付きがよくなったというわけではなく、身体が引き締まった感じだ。肘までまくったカットソーから伸びる腕も、少し太くなったのではないだろうか。
「小学校は大変か?」
「あー、うん大変。子供を振り回している内にだいぶ筋肉ついたみたい。けど充実してるよ」
「そうか、それならいいんだ」
僕の視線に気づいたのか腕を持ち上げ三島は笑った。今年の春から三島は小学校の先生になった。最初に聞いた時は家で弟たちの面倒見て、外でも子供たちの面倒を見て接するのは大変じゃないかと思ったのだが、いまになれば彼らしい選択だと思えた。子供たちと同じ視点に立つことができて、指導することも身についている。まっすぐで気持ちが強くて責任感もある。きっとこれからもっといい先生になるだろう。
「ちょっと! あんまりのんびりしてると時間なくなるわよ」
「そろそろ行くか?」
「そうだね」
しばらく三島と立ち話をしていたら、車の窓から顔を出しこちらを見ている視線に気がついた。かけられた声と視線に応えると、僕たちは車に乗ることにした。運転席に三島、助手席に峰岸、僕は後部座席に乗り込む。後部座席には先客がいて、久しぶりに会うその姿に僕は笑みを返した。
「元気にしてたか、あー、えっともう片平じゃないんだっけ」
「元気元気! 西岡先生も元気そうで安心したわ。どっちでもいいわよ。また名字変わるし」
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