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第1052話 始まり 3-4

「うるせぇ、俺はまだ枠にはまる気ないんだよ」 「あ、ちょっと峰岸! 車の中は禁煙だって何度言ったらわかるんだよ」 「前見て運転しろよ。お前がうるさいからこないだ空気清浄機を買ってやっただろう。これつけとけばいいだろう」  煙草をくわえた峰岸に、三島は大きな声を上げる。けれどその声を指で耳栓して聞き流すと、峰岸は躊躇なく煙草に火をつけた。そして車載用の小さな空気清浄機のスイッチを入れる。  三島と峰岸は高校時代あまり接点がなかったけれど、いまは大学卒業後もお互いの家に行き来するくらい仲がいいらしい。見ていると仲がいいというか、三島が峰岸の面倒をみているようにしか見えないのだが、昔は苦手と公言していた三島がこうして世話を焼くのだから打ち解けてはいるのだろう。 「この二人になにか過ちが起きたら面白いって思ってるんだけど」 「こら、三島は自分の家族だろ。そんな悪い顔して笑うな」 「でもお互いまるきり意識してないみたいだから、惜しいのよねぇ」  こそりと囁く片平に乾いた笑いしか出てこない。過ちなんてそうそう起きてもらっては困る。しかしそう思うけれど、もしも万一のことが起きても僕はすんなり受け止めているんだろうな。峰岸と三島が付き合うとかそういう想像はいままったくできないけれど、大きく反対はしないかもしれない。でもきっと片平が想像する通り二人はそういう意味での意識はしていないのだろう。  見ている限りまるで子供がじゃれているような可愛さだ。それに多分きっと三島は峰岸の好むようなタイプじゃないと思う。自立していてまっすぐと自分で立っていられる相手にはおそらく興味を示さない。どちらかと言えば、どこかこじれていて人間的に欠けた人間を求める。それは自分自身も欠けているから、その欠片を埋めるために傍にいようとするからだ。だから片平が期待する結果にはならないだろうなと思った。

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