1049 / 1096

第1049話 始まり 4-1

 走り出した車の中は、途切れることなく賑やかな笑い声と話し声が広がる。今年の春に就職をしてからなんだかんだと三人とも忙しいので、近頃集まるのは週に一度あるかないかのようだ。今度いつ集まるとか、どこへ出かけるだとか。そんな会話をしている三人を不思議な気持ちで見つめてしまう。  あの夏の校外部活動の日。あの日からこの三人の関係も少し変わったような気がする。それほど長い時間ではなかったけれど、一緒に過ごした思い出はしっかりと絆として結ばれたのだろう。 「そういえば、西岡先生のところはまだ古風なやり取りしてるの?」 「古風? 古風かな? 手紙のやり取りは意外と楽しいぞ」 「センセ、ほんとそれいつの時代だよ。まったくいまどきメールって言う便利なものがあるだろうが」  呆れたような峰岸の声と共に車内に笑い声があふれる。何度話題に上がっても笑われるのだが、実のところ彼が旅立ってからメールも電話も一度しかしたことがない。連絡手段はいつも手書きの手紙のみだ。やり取りに時間はかかるけれど形に残るし、時間をかけて書くから毎日のことを綴っても話が尽きない。 「うーん、メールは送ってすぐ返ってきたりしたら、すぐそこにいるのがわかっちゃうだろう。そうしたら声聞きたくなるし、電話したら近くなった気がして会いたくなるから」 「先生、無意識に惚気てくるよね」 「え?」  片平の言葉に僕は驚いて目を瞬かせた。いま僕はなにか変なことを言っただろうか。首を傾げて車内を見渡せば、三人とも笑いをこらえるような顔をしている。しかし先ほど言ったことは嘘ではなく、実際にお互いそう思ってメールも電話もしないことにした。  それに元々僕たちは頻繁に連絡を取り合っていたわけではないから、時々の手紙交換というやり取りはそれほど難しいことではなかった。

ともだちにシェアしよう!