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第1052話 始まり 4-4

「予定が繰り上がったこと言い忘れるとか、馬鹿だろう」 「まあ、大目に見てあげなよ。優哉すごく忙しそうだったし」  三島の言葉に片平と峰岸は肩をすくめ、ため息をつく。急な予定変更といい、彼はどうやらいま随分と忙しいようだ。そんな中で帰ってくると言うことは、一時帰国なのだろうか。しかしどちらにせよ帰ってくることには変わりない。これは手放しで喜んでもいいだろう。 「いきなり行って驚かせてあげないとね」 「泣いてしがみついて、もうどこにも行くなって言えよ」 「そのくらいしても罰は当たらないわね」  三人の言葉にくすぐったい気持ちになった。そして本当に彼が帰ってくるのだと実感が湧いてくる。 「そっか、帰ってくるんだな」  なにも知らずにいきなり彼が帰ってきたら、僕はきっと随分と驚いただろうな。不意打ちを食らって情けなく泣いている自分が想像できる。彼は僕に会ったらどんな反応をしてくれるだろうか。喜んでくれたらいいな、僕に会いたいと思ってくれていたらいいな。  そんなことを考えながら、無意識に左手の薬指を撫でていた。そこには光を受けて煌めくシルバーリングがある。離れていても頑張ろうと手をつなぎ合わせた日からずっと外さずにしている大切な証し。毎日綺麗に磨いてその輝きはいつも左手にあった。 「会えるなんて、夢みたいだ」  指折り数えるなんて真似は不謹慎だと思ってして来なかったけれど、心のどこかでずっと帰りを待ちわびていた。毎晩、空を見上げてぼんやりすることは多かった。いまなにをしているんだろう。なにを思っているんだろうって思いながら過ごしていたんだ。  あと一年二年先も待つ覚悟はできていたけれど、そろそろ会いたいなって寂しくなっていた。だから会えるだなんて夢のようだ。  車の外を流れる景色が変わるたびに胸の期待が高まって、会いたい気持ちがひどく募った。

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