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第1053話 始まり 5-1

 人のざわめきがあふれている。そんな広い空港の中を僕はいま足早に歩いていた。片手に握りしめたメモには到着便の便名と到着時刻が書かれている。  飛行機の到着時間が間近に迫り、三人は駐車場に行く前に僕を到着口のあるターミナルで下ろしてくれた。飛行機到着まであと十数分――下りてから手荷物を受け取り、到着口に出てくるまで時間はかかるだろうけれど、気持ちは少しでも早くと急いていた。  走り出したい気持ちを抑えて歩いていると、ふいに鏡が目端に止まる。なに気なく立ち止まりその中の自分を覗いた僕は、少し乱れた髪に気がつき慌てて手ぐしで整えた。そして緩んだネクタイをきつく締め直す。一通り鏡の前で身なりを整えるとほっと息をつき、今度はゆっくりと歩き出した。  鏡を覗いて慌てた自分を見たら、少し気持ちが落ち着いたかもしれない。そして冷静になると鏡の中の自分を思い出す。あれから時間が流れてそれと共に歳も重ねた。そんなに変わっていないと思っているけれど、くたびれたおじさんになってはいないだろうか。まだ若いつもりでいるが、もう三十代も後半にさしかかった。それに比べて彼はまだまだ若い二十代前半。会ってがっかりされたら嫌だな、なんて心の隅で考えてしまう。  どんなにあがいても縮まらない時間の差なのに、時々我に返ったように思い出す。彼よりも十五年先を歩く自分の姿。 「そんなこと、いま気にしても仕方がないか」  少し気持ちが落ち込んだような気がして、僕は首を振って余計な考えを振り払った。その答えは本人から直接聞けばいい。いまは会いたい気持ちを優先させよう。 「あ、もう到着したんだ」  人混みをすり抜けて到着ロビーにつくと、電光掲示板に着陸済みを知らせる文字があった。出口付近は搭乗者を待っている人であふれていたけれど、さらにその隙間を縫って近づいていく。

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