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第1054話 始まり 5-2

 そして手荷物を受け取って出てくるだろう場所に移動して、僕は思わず息を飲み込んだ。  なんだかやけに緊張してきた。ざわざわとする人の話し声が遠くに感じるくらいじっとガラスの向こう側を見つめる。それからどのくらい時間が過ぎたかわからないが、人が次々と奥のほうからやってきた。  詰めていた息を吐き出すと僕は深呼吸をする。僕に時間が流れたように向こうも時間が過ぎた。彼は四年経って変わっただろうか。ちゃんと見つけられるだろうか。 「……いた」  ガラスの向こう側に釘付けになっていた僕は、見つけたその姿に大きく息をついた。不安が一瞬で霧散した。そんな考えは杞憂だったと僕はすぐに考えを改める。  彼は確かに少し変わったかもしれない。横顔がずいぶんと大人びて精悍な顔つきになった気がする。元々背は高いけれど、以前より高く見えるのは身体つきのせいだろうか。肩幅もしっかりとして、着ているロングジャケットの上からでも逞しくなった身体がよくわかる。学生の頃から華奢な印象はまったくなかったが、その姿を見ると大人になったんだなというのをすごく感じた。十代と二十代――数年の差だけれど、この頃の数年というのは僕たちの年代の数年とは違う大きな成長だ。 「コンタクトにしたのかな。少し髪が伸びた。長いと余計大人びて見える」  学生時代にかけていた眼鏡はしていない。全体的な雰囲気は中学の頃を思い出す。けれどあの頃と似ていてあの頃とは全然違う。いまのほうがもっと大人の色気もあり、なに気ない仕草を目にするだけでもすごく鼓動が早くなっていく。そして気がつけば僕は柱の陰に隠れていた。 「なんか顔が熱くなってきた」  思っていた以上にいい男に成長していた。僕みたいな地味な人間が隣にいるのはもったいないくらいだ。

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